15年。 それは、私の20代と30代のほとんどを捧げた、かけがえのない時間でした。
2025年4月、私は長年勤め慣れた会社を退職しました。
人間関係に悩んだわけでも、仕事が嫌いになったわけでもありません。 むしろ、子どもが1人、2人と増えていく中で、社内でも前例のない「4回の産休」を快く送り出してくれた、本当に温かい職場でした。
5人目の妊娠がわかったとき、もちろん今回も「育休を取って復職する」という選択肢はありました。 でも、私は今回、その道を選びませんでした。
何度も何度も自問自答し、家族の寝顔を思い浮かべ、自分の心に手を当てて。 そうして出した答えは、キャリアに一度区切りをつけ、「退職する」という決断でした。
今、仕事と育児の狭間でボロボロになりながら走っているママへ。
辞めたいけれど、答えが出せずに立ち止まっているママへ。
そして私と同じように、勇気を持って道を変えたママへ。
なぜ私が15年のキャリアを手放したのか。 5児の母として、今だからこそ真っ直ぐにお話しできる「決断の理由」を綴ってみたいと思います。
目次
「三つ子の魂百まで」に込めた願いと、30点の自分への葛藤
新卒で入社してから15年。 貿易実務のいろはを一から教わり、公私ともにお世話になった職場は、私にとってまさに「描いていた社会人生活」そのものでした。
仕事を通じて社会と繋がり、一人の人間として成長を実感できる日々は、何物にも代えがたい私の誇りでした。 「私はここでずっと頑張っていくんだ」 そう疑わずに信じていた場所だからこそ、自分の中に生まれた「ある歪み」を、もう無視できなくなっていきました。
結婚し、子どもが増えるにつれて、理想としていた仕事・家事・育児のバランスが、音を立てるように崩れていったのです。
職場に対しても、家族に対しても、どこか申し訳ない。 「どれも30点くらいしか取れていない……」 そんな中途半端な自分に胸を痛めながらも、「それでも続けることに意味がある」と自分に言い聞かせてきました。
「三つ子の魂百まで」という言葉があるように、幼い子どもたちの記憶の中に、 「お母さんはどんなに苦しくても、歯を食いしばって働いていたんだよ」 という背中を、いつか覚えていてほしかったのかもしれません。
今は低ギアでも、いつか必ず職場に恩返しをしたい。 その一心で走り続けてきましたが、現実は想像以上に過酷でした。
誰の力にもなれていないという心苦しさ
子どもの人数が増えることは、私たち夫婦にとって、この上ない喜びです。 けれど、どれだけ理想を掲げても、現実はシビアでした。
「私、なんてさもしい母親なんだろう……」 そう思うと、胸が締め付けられるようでした。 子どもを一番に守りたいはずなのに、頭の中では仕事の調整ばかり。そんな矛盾に、限界が近づいていました。
訪れた限界と、先輩から贈られた言葉
第5子を授かったとき、ついに身体が悲鳴を上げました。 重い静脈瘤の症状で、歩くことも立っていることも困難になり、通勤すらままならない状態に。
会社からは「早めの産休」という形での復職を提案していただき、私は激しく悩みました。 器用でも優秀でもない私を、大切に育ててくれた先輩、守ってくれた上司、支えてくれた同僚たち。 15年かけて築いたこの人間関係は、私の財産そのものでした。
けれど、復職した後の自分を想像したとき、答えは明白でした。 「またきっと、睡眠時間を削って、鬼のような形相で子どもたちを急かし、職場に謝りながら早退する日々に戻ってしまう」
限界は、とっくに超えていたんです。
そんな時、ふと思いました。 この5人目の子が、「お母さん、もうそろそろ休んでもいいんじゃない?」と言って、私の元に降りてきてくれたのではないか、と。 私を仕事から引き離すためではなく、私が私自身を取り戻し、家族との時間を守るために、この子が「立ち止まる勇気」をくれたのだと感じたのです。
そして、ある先輩がこんなアドバイスをくれました。 「何かを手放したとき、なくなったものを数えがちだけど、残ったものを考えた方がいい。 全部を一度に手に入れることは、誰にもできないんだから」
手放した先に、残ったもの
夫婦で何度も、何度も話し合いました。 そして、これ以上会社に留まることは、自分にとっても会社にとっても誠実ではないという結論に至りました。
15年のキャリアを手放すことは、これまでの自分を否定するような、足元が崩れるような怖さがありました。 でも、その手放した手のひらを見つめてみると、そこには大切なものがしっかりと残っていました。
「嫌い」で辞めるのではなく、「大切」を守るために辞める。 それが、15年お世話になった職場への、私なりの最後で精一杯の誠実な答えだったと思っています。
おわりに:今、立ち止まろうとしているあなたへ
もし今、あなたが何かを手放そうとして、その怖さに足がすくんでいるのなら、どうか自分を責めないでください。
キャリアは一度途切れても、あなたが積み上げてきた日々は、誰にも奪えないあなただけの力として残ります。
「辞める」ことは逃げではなく、新しい「今のベスト」を作るための、前向きな決断です。
一度深呼吸をして、あなたの手のひらに残っている「大切なもの」に、ゆっくりと目を向けてみてください。 あなたが選んだその道は、きっと明日からのあなたを、もっと優しく支えてくれるはずです。
今日まで走り続けてきた自分に、「お疲れ様」を言ってあげてください。