明日は遠足だから、お弁当楽しみにしててね。
そう子どもたちに声をかけるたび、私の心の中では静かに、けれど確かにゴングが鳴ります。
2022年から数えて、これまで合計11回。
5人の子どもたちを育てながら、私は「遠足のお弁当」という名のリングに立ち続けてきました。
世の中には、幼稚園で毎日お弁当を作られているママたちもたくさんいらっしゃいます。
それに比べたら、わが家の遠足は年に春と秋の2回だけ。
「(たった2回なんだから、そんなに気負わなくても……)」
そう自分に言い聞かせることもありますが、不器用な私にとっては、その「たった2回」こそが、絶対に負けられない真剣勝負。回数が限られているからこそ、その2回にお弁当箱の蓋が開いた瞬間の喜びを、すべて詰め込みたいと思ってしまうのです。
正直にお話しすると、私は料理が決して得意ではありません。
毎回レシピサイトとにらめっこしては、効率の悪さに自分でもため息が出るほど。
夜な夜なSNSでキラキラしたお弁当のアイデアを探しては、自分で自分のハードルを上げてしまう……そんな不器用な日々を送っています。
それでも、私がこの「自分との戦い」をやめられないのには、理由があります。
子どもの頃、母が作ってくれたお弁当。
きれいに並んだイチゴや、彩り豊かな三色ごはんを口にした瞬間の、あの小さな幸せを今でも覚えているからです。
わが家は子どもが5人の多子世帯。
だからといって、何かを我慢はさせたくない。
せめてお弁当の時間だけは、一人ひとりに「あなただけの特別」を届けてあげたい。
そんな母としての意地と、少し空回り気味の愛情。
そして、毎回予想を裏切る子どもたちのリアクション。
今回は、2022年10月の「伝説の第1回」から現在までのドタバタな記録を、そっと振り返ってみたいと思います。
目次
【第1章】すべての始まり:思い出の「クマちゃん」
物語の始まりは、2022年10月。長女の初めての遠足でした。

当時の私は、第四子となる長男を出産してまだ1ヶ月。 睡眠時間は2時間あるかないかという、今思い出しても意識が朦朧とするような日々でした。
それでも、「(一生に一度の“初めて”を、最高に幸せな思い出にしてあげたい)」
その一心で、眠い目をこすりながら、おにぎりを丸めたのを覚えています。
保育園にお迎えに行ったときに長女は満点の笑顔で、
ぜーんぶおいしくて、ぜーんぶかわいかった!!!💕
と言ってくれたとき、その一言で、寝不足の疲れも、キッチンでの苦労も、すべてが報われた気がしました。
第2章:家庭内「ネタバレ」との戦い






恐怖の第一走者、長女の帰還
わが家の遠足スケジュールは、1週間ずつズレてやってきます。 (「いっそ同じ日なら楽なのに……」と何度天を仰いだことか!)
トップバッターの長女が帰宅した瞬間、リビングはさながら「お弁当の記者会見場」に。
今日ね、クマちゃんがいたの!ちくわの中に枝豆が入っててね!かわいかったなぁ~
と、詳細すぎる食レポが始まります。
それを聞く次女と三女の目は、期待でキラキラ。 一方で、キッチンにいる私の心境は複雑です。
「(あぁ……全部言わないで〜!来週、次女に同じものを作ったら『お姉ちゃんと同じだ』って思われちゃう……!)」
「あなただけの特別」を届けたいという私の意地が、また私を深夜のレシピ検索へと駆り立てます。 「お弁当 キャラ弁 簡単」「ちくわ アレンジ」……。 こうして自ら首を絞める、眠れない夜が重なっていきました。
次女の「ロボット歩き」と、まさかの結末
そんな私の熱意が、ちょっぴり切ない事件を起こしたこともあります。
中身がぐちゃぐちゃになるから、揺らさないで歩いてね💦
そう念押しして送り出した朝。 次女はリュックを背負った背中をピンと伸ばし、まるでロボットのように慎重に歩いていきました。 その健気な後ろ姿に鼻の奥をツンとさせていたのですが……。
帰宅したお弁当箱を見て、私は凍りつきました。 3分の1くらい、手付かずで残っていたのです。
「お腹いっぱいになっちゃった?」と思わず聞くと、次女はポツリ。
だって……可哀想で食べられなかったんだもん……
完食が愛だと思っていた私に、次女が教えてくれた「愛ゆえの残食」。 怒るに怒れず、「次女らしいか…」と、ただただ苦笑いするしかない、そんな思い出です。
「デザート別添え」という新たな壁
さらに追い打ちをかけるのが、子どもたちが持ってくる「お友達の情報」です。
〇〇ちゃんのお弁当、デザートが別の入れ物に入ってたよ!
その一言を聞いた瞬間、私の負けず嫌いスイッチがオンになります。
デザート……だと!? 詰め合わせるだけでも精一杯なのに、別の入れ物だと!?
子どもに言われた言葉が頭をぐるぐると駆け巡りながら、今度はお弁当用のデザート写真を検索する自分がいます。
こうして、私のお弁当作りは回を追うごとに「より凝ったもの」へとエスカレートしていきました。 料理が苦手で、効率も悪い。それでも、子どもたちの「わぁっ!」という歓声(と、たまにくる斜め上の反応)のために、私は今日もスマホ片手に新しいレシピを探し続けるのです。
第3章:怒涛の3週連続遠足と、11枚の「母の年輪」





2025年秋、地獄のスケジュール
昨年秋、私を待ち受けていたのは「長女(小1)・次女(年長)・三女(年少)」による、3週連続の遠足ラッシュでした。
幼稚園で毎日お弁当を作られているママもいらっしゃる中、『週に一度くらいで何を……』と思われるかもしれません。でも、不器用な私にとっては、その週に一度のプレッシャーもかなりのもの。 何週間も前からソワソワして、スマホの検索画面とにらめっこする時間は、まさに真剣勝負そのものです。
毎週、一人が帰宅して「おべんとう、おいしかった~!」と報告するたびに、翌週のハードルが一段ずつ上がっていく恐怖。もはや「内容を被らせない」というのは、私にとって執念に近いプライドになっていました。
「今週はちくわ鳥を出したから、来週はハムのうずまき……いや、それもお姉ちゃんの時に作ったな」 夜な夜な、スマホの過去写真とPinterestを往復する日々。深夜2時にキッチンで一人、マカロニサラダを詰めながら「私、何と戦っているんだろう?」と自問自答したこともあります。
11枚の写真が語る、私の変化
並べてみた11枚の写真は、そのまま私の「母としての歴史」でした。
- 初期: 2022年、産後の朦朧とした意識の中で作った「クマちゃん」。とにかく「可愛い」を詰め込むことに必死でした。
- 中期: 次女の「食べられない事件」を経て、キャラの強度(?)の調整、見た目だけではなく、味の向上などなど試行錯誤…
- 現在: デザートを別容器にし、彩りと栄養のバランスも少しずつ考えられるようになった最新作。
1.5歳差の姉妹弟たちが、それぞれ違う時期に、違う場所へ出かけていく。そのたびに、私は彼らの小さな背中に「あなただけの特別」を詰め込んだお弁当箱を託してきました。
そして、そんな私の「気合」を一番敏感に察知しているのが、実は夫かもしれません。
遠足の朝、いつもの「残り物弁当」の中に、不意に現れるハートの卵焼き。
ん? 今日は遠足だっけ。
言葉数は少なくても、その一言には「今日も朝からお疲れ様」という労いが込められている(と信じています)。
まとめ:お弁当箱に詰めたのは、未来への「お守り」
11回分のお弁当を振り返って思うのは、私は結局、母が私にしてくれたことをなぞっているだけなのだということです。
料理は相変わらず苦手で、効率も悪い。毎回「自分の首を絞めている」と自覚しながら、それでも年に2回の遠足弁当なのだからと、冷凍食品に頼らず、一から手作りすることにこだわってしまう。 それは、かつて私が母のお弁当箱を開けた時に感じた「私は愛されているんだ」というあの無敵な気持ちを、私の子どもたちにも手渡したいからに他なりません。
「ぜんぶおいしくて、ぜーんぶかわいかった!」 長女が初めてお弁当を食べた日のあの言葉は、今でも私の宝物です。
いつか子どもたちが大人になり、自分たちが親になったとき。 ふとした瞬間に、あの「ちくわ鳥」や「クマちゃんおにぎり」を思い出してくれたら。 「お母さん、いつも一生懸命だったな」と笑ってくれたら。 それだけで、私の数えきれないほどの寝不足の夜は、すべて報われる気がするのです。
さあ、次の遠足は誰の番でしょうか。
また私の「首絞めお弁当作り」が始まりますが、子どもたちのあの笑顔が見られるなら、私は喜んでキッチンのリングに立ちたいと思います。